QSTの結果が被験者の反応によって左右されるのは言うまでもありません。このため、測定の前には以下の点に注意し、できるだけ正確な測定を行うための準備をすることが重要です。
測定前の準備
(1)検査に集中できる「環境」
診察室や検査室のような周りと区切られた静かな空間で、落ち着いて検査をうけてもらうように配慮します。騒がしいオープンスペースでは正確な評価が行えない点に留意して下さい。
(2)何を検査するか、何を答えてもらいたいかの「説明」
検査の方法、使用する器具、加えた刺激にどのように反応してもらいたい(答えてもらいたい)か、を説明します。一時的な痛みを伴いますが、それはすぐになくなることを説明し、必要以上に不安を与えないようにして下さい。検査の意義については、「痛みを伝える神経の調子をみる」程度に留め、あまり細かいメカニズムや予想される結果などは伝えないで下さい。
(3)実施する検査に慣れるための「練習」
実施するQSTのうち、簡単なものを本番の測定部位以外で実際に行い、刺激を中止する方法や反応の仕方を練習して下さい。「反応するタイミングがよくわからない」「痛みになる瞬間がわからない」という声はよく聞かれますが、自分の中で概ね同じ基準で行ってもらうよう促して下さい。
測定のコツ
(1)圧痛閾値(PPT)
PPTは、ミニアルゴメーター(図1)を使用して測定を行います。ミニアルゴメーターの横にあるON/OFFのスイッチはONの状態で刺激を加え、刺激をやめると針が止まるようになっており、OFFにすると針が戻る仕組みとなっています。測定をする際には、キャリブレーションとして一度OFFにした状態で針が0を示しているか確認をしてから、ONで刺激を加えてください。刺激を行う際は、およそ5N/秒の速さで一定に刺激します。この時にミニアルゴメーターを持っていない反対の手で皮膚を引っ張りながら刺激を行うと皮膚のズレや滑りが生じにくくなります(図2)。また、骨など突出している部位に刺激を行う際には、刺激部位がずれないように、より注意が必要です。ミニアルゴメーターの測定は100Nまでの刺激が可能となります。被験者には、圧迫刺激が、痛みに変わったと感じたところで「はい」と答えてもらい、その時の数値をPPTとして記録します。連続して刺激を行う場合には、先の刺激の影響が残存している可能性があるため、最低20秒間は空けて次の測定を行うようにします。
(2)時間的加重(TS)
TSでは、ピンプリック(図3)を使用します。ピンプリックは刺激部位に対して垂直に刺激を加え、刺激の速度は1回/秒の速さで一定に刺激します(図4)。ピンプリックを刺激部位に押し込むと、「カチッ」と落ちる音が鳴るようになっていますが、刺激を一定にするために「カチッ」と音が鳴る前に持ちあげます。測定は、1回目刺激後の痛みの強さ(VAS)と10回連続刺激した後の痛みの強さ(VAS)を聴取し、10回連続刺激後のVASと1回刺激後のVASの差(10回連続後のVAS-1回目刺激後のVAS)をTSとして記録します。
(3)条件刺激性疼痛調節(CPM)
CPMでは、ミニアルゴメーターとペインクリップ(図5)を使用します。先程と同じ手順でミニアルゴメーターを用いてPPTを測定しますが、この時に刺激側とは反対の耳垂にペインクリップを挟んだ状態で測定します(図6)。挟んだ対側の耳垂の痛み(条件刺激)の強さはVASで60mm以上になるように調節を行います。ペインプリックは数種類(挟む力が異なる)あるため、条件刺激の強さを調整できます。条件刺激がない時とある時のPPTの増加量または増加率をCPMとして記録します。