「痛みは常に主観的」であり、その客観的評価が難しいのは周知の事実です。日常診療において慢性痛患者は、病名や局所の画像変化が同等であっても痛みの病態が全く異なることをしばしば経験します。特に、難治性の患者では、①痛みに関わる感覚神経の機能的な変化、②精神心理社会的な要因、のいずれか、または両者が相まって存在するパターンが多いと思います。このため、局所の病態に加えて①、②の両方を評価するのが妥当ですが、実臨床では②の存在がクローズアップされがちであり、①の病態はあまり意識されていないことが多いです。この原因として、ヒトにおいて①を客観的に評価する良い「はかり」が少ないことが挙げられます(図1)。
図1. 痛みの難治化メカニズム
定量的感覚検査(Quantitative Sensory Testing: QST)は「痛みの伝達や制御に関わる神経機能をモニタリングできる検査」であり、疼痛感作(pain sensitization)というキーワードとともに、①の病態を評価する「はかり」として発展してきました。具体的には、標準化された刺激に対する反応性をみるスタティック QSTと、痛みの加重効果や調節機能をみるダイナミック QSTがあり、これらを組み合わせたプロトコールが慢性痛の病態評価に有用です。実際、QSTによって検出された神経機能変化が、種々の慢性痛患者の臨床的な痛みの病態や治療反応性と関係することは既に明らかになっています(Arendt-Nielsen L, 2018)が、実臨床では全く一般化していません。この最大の理由は、研究室レベルで行うQSTに使用するツールが特殊で、高額で、さらに測定に時間を要するためと考えられます。私たちはこの問題を解決するために、簡易QSTツール(QuantiPain™:図2)を独自に開発し、現在、その臨床応用にむけた基礎的データを蓄積中です。
図2. QuantiPain™
(a)ミニアルゴメーター (b) ピンプリック (c) ペインクリップ
本ウェブサイト開設の目的は、慢性痛患者の評価の一端として、簡易QSTツールを用いた神経機能変化の測定方法やプロトコールを広く普及し、慢性痛診療に携わる医療者の誰もが、簡単にクリニックやベッドサイドで使用可能となる体制の足がかりをつくることです。